
先日、フォールディングバイクのFDB206で長年使って来た回転式グリップシフター(レボシフト)を取り外し、新しくサム(親指)シフト式のシマノ SL-TX30 R6へ取り替えた時の手順をまとめてみました。
ハンドルグリップ及びインナーワイヤーを外しておく

まず、右手側のハンドルグリップを抜きます。
新しく入れるサムシフターでは、左手側と同じ長いハンドルグリップでないといけないので、今の短いやつはもう使いません。別の自転車で再利用したいのでなければ、手っ取り早くカッターで切り裂いてもいいでしょう。
もちろん新しいハンドルグリップも用意しておきます。ダイソーで売っている2個セット108円のでもOK。

次に、リアディレーラー下部のナットを緩めてインナーワイヤーを外し、先端の保護キャップも抜いて、素通しで引き抜ける状態にしておきます。
9ミリナットの謎
ところで・・
シフトワイヤーを張り替えるたび思うのですが、このように六角ナットでワイヤー固定するディレーラーでは、なぜか二面幅9ミリという中途半端なサイズが多いのです。9ミリのスパナなんて、一般家庭にある工具箱やスパナセットの中にはあまり入っていないでしょう。
シフトワイヤーを張り替えるたび思うのですが、このように六角ナットでワイヤー固定するディレーラーでは、なぜか二面幅9ミリという中途半端なサイズが多いのです。9ミリのスパナなんて、一般家庭にある工具箱やスパナセットの中にはあまり入っていないでしょう。
これに限らず、自転車の部品には、けして一般的とは言えない規格のものがちょこちょこ混じっています。例えば前後ホイールのハブシャフト(車軸)もそう。前輪のナットこそ二面幅14ミリと普通ですが、後輪はめったに見ない15ミリ。しかもネジ山が前後ともインチネジで、おまけにウィット規格と来ているので、ホームセンターで普通に売っているメートルネジのナットは使えず、割高な自転車専用パーツを買わねばなりません。
作者は仕事柄この手の部材をよく目にしますけど、日常生活の場でこんな変なネジを使っている機械は、自転車以外ではちょっと見ません。先のディレーラーの9ミリナットにしても、せめて普通の8ミリか10ミリにしておいてくれたら、ユーザーとしても携帯工具をひとつ減らせて助かるんですけどね。
レボシフトを取り外す

レボシフトのカバーを外し、インナーワイヤーを抜き取ります。
そのままだと抜きにくいので、細いマイナスドライバーを使って、ワイヤーのタイコ部分をひっかけて起こします。
シマノのレボシフトはこの一連の交換作業がやりにくいのが難点。カバー外しの時に爪を折ってしまったり、カバーなしのまま放ったらかして走っている人もたまに見かけます。

抜いたワイヤーは丸めて保管しておきます。
DAHON系のリアディレーラーのワイヤーは経路が長大で2メートルはあるので、他の自転車のシフトワイヤーが切れるなどした場合のスペアとしても使い出があるのです。
サムシフターを取り付ける

レボシフトをハンドルから抜き取り、新しいサムシフターをセット。
サムシフターはブレーキレバーの内側に置くのが基本なので、ブレーキレバーも一緒に抜き取る必要があります。

試しにブレーキレバーの外側に置いてみたら、シフター本体がブレーキレバーの基部と干渉し、無駄な隙間が出来ます。レバーの出しろも少なくなって、かなり使いにくい印象。
やっぱりダメですね・・。
やっぱりダメですね・・。

各パーツを使いやすい位置に調整したら、新しいグリップを差し込みます。
インナーワイヤーをアウターに通す

新しいインナーワイヤーは、変速機やシフトアウターに通す前に、防錆や抵抗軽減のため全体にオイルを塗っておきます。といってもボロ布にオイルを数滴垂らし、ワイヤー全体に馴染ませるよう数回拭きあげる程度でOK。
滑りをよくしようと思うあまり多く塗りすぎたり、アウター内にスプレーで注入するなどしても、どこかが錆び付いてでもいない限り、大して変わりありません。そんなボロワイヤーはアウターも一緒に新品にした方が効果的でしょう。
それに余計な油分は使っているうちアウターの下端から流れ落ちてしまい、無用な汚れを呼び寄せる原因にもなります。
それに余計な油分は使っているうちアウターの下端から流れ落ちてしまい、無用な汚れを呼び寄せる原因にもなります。
作者はもっぱらオートバイ整備で使った4サイクルエンジンオイルの余りを利用しています。オイル差しに小分けにしておけば、何かと役立ちますね。
CRC556に代表される潤滑スプレーは、最初はいいですが持ちが悪く、潤滑効果も意外と高くありません。こういう場所にはあまり使わない方がいいでしょう。
塗った後のワイヤーは、うっかり床や地面に触れないよう注意して扱います。

サムシフターのレバー位置をトップの6速にし、新しいインナーワイヤーを通します。
前のレボシフトと違い、穴に突っ込むだけで簡単に向こう側から出てきます。

シフトアウターの端まで通したら、ディレーラーへと誘導。
最近のシマノTourney系はガイドプーリーがついており、ディレーラー端でワイヤー経路に角度がつけられるのは便利なんですが、引っかかりなくきちんと通すのがちょっと面倒。

ここで時々やるミスが、アウター受けとのズレ。これに気付かないままワイヤーをピンと張ってしまうと、またやり直しです。
締め込む前にワイヤー経路はきちんと確認しましょう。
締め込む前にワイヤー経路はきちんと確認しましょう。

アウター受けにテンションアジャスターがある場合は、いっぱい締め込んだ位置から1〜2回転くらい戻した状態にしておきます。
金属製のインナーワイヤーは、程度の差こそあれ必ず初期伸びが出ますので、アジャスターが出すぎた状態でワイヤーを固定してしまうと、後日調整幅が足りなくなる可能性があります。
逆に張りすぎな場合、アジャスターが締まりきっていたら縮む方向に調整出来ず、ナットを緩めてワイヤーを戻すという面倒な作業をせねばなりません。
逆に張りすぎな場合、アジャスターが締まりきっていたら縮む方向に調整出来ず、ナットを緩めてワイヤーを戻すという面倒な作業をせねばなりません。
シフトワイヤーを何年も使い込んだところで、アジャスターの調整幅を使い切る事はまずないので、最初に1〜2回戻しておく位は大丈夫。もしそれで足りなくなったら、完全にワイヤーの寿命と考えるべきでしょう。
インナーワイヤーをディレーラーに固定する

インナーワイヤーをナットまで通したら、ペンチ等で引っ張った状態で、ナットを締めます。
力を込めて引っ張りすぎると、必要な長さよりも微妙に短くなってしまい、アジャスターのお世話になったり、ナットを緩めてずらす事になります。と言って何もしないで締めたら緩すぎるので、たるみを取る感じで、軽〜くピンと張る程度に。

この時点でのナット固定は仮締め。力任せにぎゅうぎゅうに締め付ける必要はありません。動かないよう片手でギュ、程度で十分。
最後の調整いかんによっては、また緩めてずらす事になるかもしれないからです。
インナーワイヤーの末端処理

余ったワイヤーはペンチで切って短くまとめます。ここの長さは整備センスの出る箇所ですね。
ちなみにシマノの取説には、3センチ以下にしなさいと書いてありました。
ちなみにシマノの取説には、3センチ以下にしなさいと書いてありました。
自転車用の専用工具として、ワイヤー専用カッターが何千円もの値段で売られていますが、作者はほとんど使いません。一般的な大型ペンチで十分です。

専用カッターを使えば、このような末端のほつれが出にくい、というのが宣伝文句。
でもこの程度なら、簡単に直せます。

ワイヤーの鋼線の流れに沿って、指で軽くねじってやるだけ。

ハイ、この通り。
作者は昭和時代からずっとこの方法でやっていますが、問題が起きた事はありません。

ワイヤー端のバラケ防止のための保護キャップも、同じペンチを使って圧縮します。
ペンチの先端ではなく、力を加えやすい柄の根元の合わせ目でやるのがコツ。

このとおり、仕上がりました。
保護キャップはペンチ等でつかんで強く引っ張れば、すぐ抜ける状態です。こんなの未来永劫付けておくような代物でもないですし、次の交換の時にスポッと抜けてくれれば、いちいち切る必要もありません。よって専用ペンチなど使わずとも、この程度で十分です。
ディレーラーの調整

リアタイヤを浮かせてペダルを回しながら、あるいは実走行して変速チェックをします。パンク修理の時のように逆さまに置いた状態で回すと、ディレーラーに加わるチェーンの重みなどが逆方向になるせいか、経験上あまりうまく仕上がりません。
もっとも、同じシマノ製品のレボシフターで交換前にちゃんと動いていたのであれば、それほど調整しなくても普通に動くはずです。
ギアの変わり目にチェーンが乗り切れず、ガリガリと音を立てるようでしたら調整をしますが、ほとんどの場合、ディレーラーのテンションアジャスターを張るか緩めるかすれば、解決するでしょう。
納得がいったなら、ディレーラーのナットを本締めしてインナーワイヤーをしっかり固定します。シマノが指定する締め付けトルクは6〜7N・mです。
締め付けトルクについて

パーツのボルトやナットには、個別に締め付けトルクが指定されている場合があります。例えば1N・m(ニュートン・メートル)と指定されている場合、ボルトに長さ1メートルの工具を水平にセットし、その端っこに1N(ニュートン)の力をかけた時に発生する回転トルクで締め付けなさい、という意味です。
(※1Nとは約0.1kgf(キログラム重)、つまり0.1キログラムのオモリを垂直にぶら下げた時に加わる力とほぼ同じ)
(※1Nとは約0.1kgf(キログラム重)、つまり0.1キログラムのオモリを垂直にぶら下げた時に加わる力とほぼ同じ)
でも、ボルトやナットを締めつけるたび、いちいちそれに合ったオモリを用意していたんじゃ手間ですし、図のように真下方向に回せない場所だってあります。だいいち長さ1メートルもあるスパナや六角レンチなんて、一般家庭には置いてないでしょう(笑)。
回転トルクはN × m、つまり力かける距離という単純な式で表されますから、距離(スパナの長さ)が10分の1になれば、必要な力は10倍になります。この関係を覚えておけば、短い工具でも適切な締め付けトルクを得る事が可能です。
例えば、上記のシマノ製ディレーラーの場合、インナーワイヤー固定ナットの締め付けトルクは6〜7N・mが指定値。これを長さ10センチのスパナで適正に締め付けたい場合、スパナの端にかけるべき力は約7kgfと算出されます。
このスパナに加えるべき力を機械的に加減してくれるのがトルクレンチ。指定したぶんのトルクがかかると、首の部分がカクッと折れ曲がったり、ブザーが鳴るなどして、適正トルクに達した事を教えてくれます・・が、いかんせんトルクレンチは高価な工具。そこで簡易的な手法として、家庭用の体重計で針が7キログラムを指すよう上から手で押してみる事で、大体の力加減が把握しやすくなるはずです。
注意すべき点としては、自転車に限らずメーカー指定の締め付けトルクは普段我々が感覚だけで締め込んでいるよりも弱い場合がほとんどなので、「これでちゃんと締まってるの?数字や計算が間違っているんじゃ?」などと懐疑的になる人がおられるかもしれません。
そして「強く締まっているぶんには別にいいじゃないか。目一杯締め付けちゃえ!」なんて思いがちですけど、次に外す時に抜けなくなったり、ネジやパーツを微妙に変形させてしまったり、最悪、金属疲労が進んで走行中にポッキリ折れたりと、ネジの締めすぎにはロクな事がありません。
緩すぎるネジはもちろん困りますが、必要以上の締め込み(オーバートルク)もトラブルの元。十分な気配りをして作業すべきでしょう。
関連記事